新しい家族

『盛夏の候』
――という書き出しで、結婚式・披露宴の招待状を送ったものの。
居座り続ける重苦しい雲と、大粒の雫に、書き出しの選択を間違ったか……と。
そんなことを、ワイパーに押し流される雨を眺めながら考えていた時だった。



私が、濡れたアスファルトに力なく座り込んでいた、その子を見つけたのは。



私は、信号が青に変わると交差点を越え、ハザードを点灯して、
車を路肩に停めた。交通の流れが途切れるのを待ち、私が駆け寄ると、
その子は半分しか開いていない目で私を見つけ、細い声を上げた。
私は頷き、その子を病院へ連れて行った。その際、先生に、
「左手と視力に、何らかの障害が残るかも知れません」と言われた。



あの日から、早ひと月近く。
心配された後遺症の存在を感じさせないほど、
その子は元気に過ごしている。
私が1人で部屋にいる時は、私の背中にしがみついて離れない。
私の奥さんも一緒の時は、奥さんのそばから離れない。
私の奥さんは、非常に動物に好かれやすいタイプなのだ……と、
自分を慰める日々。



引取り手は、すでに決まっている。奥さんの実家だ。
私達がお盆に帰省した時から、この子は、新しい家族として迎え入れられる。
先住の子達と仲良くやれるだろうか……
見事なまでのじゃじゃ馬っぷりを発揮して迷惑をかけないだろうか……
心配と不安の種が、尽きることはない。
もしかしたら、この子にとっては、あの日、あの場所で、他の誰かに出会っていた
方が良かったのではないか……と思うこともあるけれど。ある人には、私のしたこと
全てが、私のエゴだと否定されてしまったけれど。



私は、私に出来る精一杯を、いつまでも、この子のために――







ST いつか