冷たい雨で濡れたアスファルトに、枝からおちた金木犀の花が、もう一度咲いていました。

部屋に流れ込む風に、もう、あのどこか懐かしさを感じさせる香りは、混じらなくなりました。

数年ぶりに連絡を取り合い再会した友達は、

僕のことを見て「変わってないな」と、あの頃のままの笑顔で言いました。

僕は「お互いにね」という言葉に、小さな嘘と、大きな願いを込めて返しました。

僕達は毎日の生活の中に埋もれてすぐに見つけられなくなってしまうような、

他愛ない言葉を厭きるほどたくさん交わしました。

最後に、「じゃ、また」と、決してお互いを縛り付けることのない約束をして、僕は彼と別れました。

その約束が果たされた時に交わす言葉を、

良い意味での「変わったな・お互いにね」にすることを誓いながら。



                                斉藤 改め いつか